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東京高等裁判所 平成9年(ネ)1187号 判決

控訴人

荒川建設工業株式会社

右代表者代表取締役

荒川雅晴

右訴訟代理人弁護士

関哲夫

関聡介

被控訴人

大柴恒雄

右訴訟代理人弁護士

橋本勇

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金三〇〇〇万円及びこれに対する平成四年九月一日から支払済みまで年5.875パーセントの割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

(当審における請求の減縮により、控訴人の請求は、右2のとおりとなった。)

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

次のように付加、訂正、削除するほかは、原判決の事実及び理由の「第二事案の概要」の冒頭部分の第一文(同四頁三行目から同八行目まで)及び一、二に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決六頁九行目の括弧書きの中の「条例」を「本件条例」に改め、同一一行目から同七頁一行目にかけての括弧書きの次に「合計四二三五万円」を加え、同四行目及び同六行目の「条例」を「本件条例」に、同七行目の「子メーター」を「戸メーター」に、同一〇行目の「したがって」を「控訴人の清里Ⅱの給水計画は、原判決別紙物件目録二(ただし、同(2)の『子メーター』を『戸メーター』に改めたもの)記載のとおりであるところ、控訴人は」に改め、同八頁四行目の「給水契約の申込み」の次に「(以下『本件給水申込み』という。)」を加え、同四、五行目の括弧書きを削る。

二  同七行目の「本件申込み」を「本件給水申込み」に改め、同九頁八行目の次に次のように加える。

「水道法一四条一項は、『水道事業者は、料金、給水装置工事の費用の負担区分その他の供給条件について、供給規程を定めなければならない。』としている。同項の規程の趣旨は、附合契約である給水契約の約款としての供給規程の内容を水道事業者の自由な作成に委ねると、水道事業者に一方的に有利なものとなり、需用者の利益を不当に害するおそれがあるため、供給規程の内容について厚生大臣がその認可等の手段により介入し、もって需用者の利益を保護することにある。したがって、供給規程に含まれるべきでない事項(供給条件に当たらない事項)は、たとえ水道事業者たる市町村が水道事業に関し、制定した条例(給水条例)に定められていたとしても、附合契約の約款とはならない。なお、標準給水条例に関する厚生省通達は、『この標準給水条例には、……法的な条例事項のほかに管理規程に譲り得るものも含まれているので、条例事項以外は必要に応じて、規程の内に移しても差し支えない』と述べているが、このことは、給水条例に規定された事項がすべて供給条件に当たるとは限らないことを示している。

地方公共団体たる水道事業者については、供給規程の認可主義は採用されておらず、料金変更について厚生大臣に対する届出義務があるにすぎない。これは、地方公共団体たる水道事業者の事業活動について国が監督せず、放任する趣旨ではなく、通達、求報告、立入検査及びその結果に基づく認可取消し、供給改善命令等の強力な指揮監督手段によってその内容の適正を確保することとしたことによるものである。

右の厚生省による標準給水条例の示達は、民間水道事業者の供給規程における認可基準に代わるものであり、附合契約の約款に対する国の行政的介入の趣旨からいって、水道事業者たる地方公共団体が制定する条例の内容のうち、附合契約の約款たる供給規程に該当する部分(供給条件に該当する部分)については、標準給水条例に反することは、許されないというべきである。標準給水条例には、水道加入金に関する定めはないが、このことは、水道事業の所管官庁である厚生省の見解によれば、水道加入金は供給規程の中に定めるべき事項ではないこと、すなわち、水道加入金は『供給条件』に該当しないことを意味している。したがって、高根町が本件条例中に寄付金の性格を有する水道加入金について定めることはもとより自由であるが、水道加入金に関する条項は、供給条件には該当しない。」

三  同九頁九行目の「条例」から同一〇行目の「それは」までを「憲法九四条、地方自治法一四条一項によれば、地方公共団体は、国の法令の範囲内において、これに違反しない限度で当該地方公共団体の事務について条例を制定することができるのであって、国の事務については、個別的委任がない限り条例を制定することができない。すなわち、憲法上法律に留保されている事項はもとより、国の法令で先占された領域については、条例制定権は、及ばないのである。そして、憲法二九条二項は、財産権の内容についての定めを法律に留保しているから、条例で財産権の内容を制限し、侵害することは許されず、また、条例は、行政法規の一種であり、国法の独占する領域である私法秩序の形成に関する事項は、条例の所管事項ではないところ、水道の利用関係は、私法関係に属するから、本件条例が水道加入金の支払を義務づけているとすれば、それは、給水申込者に対して」に改める。

四  同一〇頁一行目の次に次のように加える。

「さらに、高根町と地形、人口、観光客数、財政規模等が類似している市町村の水道事業において、本件条例における水道加入金のように高額な水道加入金の支払を義務づけ、これを徴収している例はなく、このように著しく高額な水道加入金を前納しない新規需用者に対し、給水を拒絶することができるとすれば、高根町に移転する希望を持つ国民が高根町に事実上移転できないことになるから、本件条例の水道加入金の定めは、憲法二二条に違反する。」

五  同九行目の「本件申込み」を「本件給水申込み」に、同一一頁四行目の「責任がある。」を「責任があり、控訴人は、被控訴人らに対し、その内金三〇〇〇万円の支払を求める。」に改め、同行目の次に次のように加える。

「三 被控訴人の主張

1  地方公共団体の経営する企業については、その経営に要する経費は、当該企業の経営に伴う収入をもってこれに充てるのが原則であり(地方財政法六条)、当該経費の負担の方法は、当該地方公共団体の置かれている社会的、経済的状況を勘案したうえで、一定の政策的判断を加えて決定されるべきものである。水道加入金は、料金とは異なるが、水道経営に必要不可欠なものであり、継続的かつ安定的な給水と対価関係に立つものであるから、水道法一四条一項の『その他の供給条件』としてその負担を求めることができるものである。

2  水道法一四条一項は、『水道事業者は、料金、給水装置工事費用の負担区分その他の供給条件について、供給規程を定めなければならない』と定めているが、その趣旨は、水道事業者と水道の需用者との給水契約の内容(供給条件)をあらかじめ供給規程として定めておかなければならないということにある。すなわち、その性質上、附合契約とならざるを得ない給水契約の内容を供給規程で定めたうえで、その供給規程を事前に一般に周知させることとして(同条五項)、給水契約の申込者が予測できない不利益を被ることのないように配慮しているのである。いい換えれば、需用者が負うべき義務の内容は、法定されているものを除き、そのすべてが供給規程に定められていなければならない反面、供給規程に定められている以上、給水契約の締結者は、当然にこれに基づく義務を負うことになるのである。

本件加入金は、本件条例二七条に定められ、その支払が供給条件の一部をなし、料金と一体となって、本件簡易水道の事業経営の基礎をなし、これを支えているものであるから、水道加入金に関する条項だけが附合契約たる給水契約に含まれないとする控訴人の主張は、理由がない。

3  水道加入金の正当性を判断するに当たっては、水道事業を巡る自然的、社会的、経済的条件、水道事業の実態、水道事業の従前の経緯、既存の需用者との公平などを総合考慮し、水道加入金の必要性を検討する必要があるところ、本件簡易水道に係る水道事業には、次のような事情がある。

(一) 高根町は、地形的に急峻であることなどから、もともと給水設備に多額の投資を要する。

(二) 定住人口に匹敵するほどの観光客が存在し、しかも、これが夏期に集中するため、一時的な水需要増大に対応する設備が必要である。

(三) 本件簡易水道は、町内の簡易水道組合の事業を統合したものであるが、水源は乏しく、施設も老朽化しているため、水源開発、施設の補修・新設に多額の資金を要する。

(四) 統合前の簡易水道組合の施設は、組合員の人的・物的負担により建設されたものであり、ほとんどの組合において新規加入者から権利金を徴収していた。

(五) 町内における給水先の戸数の増加については、近年、常時水道を使用しない別荘の増加が顕著である。

(六) 簡易水道特別会計に一般会計から財源を繰り入れるにも限度があり、同特別会計においては、水道加入金が重要な財源となっている。

したがって、高根町にとっては、本件簡易水道の財政的基礎を維持する収入源として、水道加入金は必要不可欠であり、その制度が正当であることは明らかである。

4  控訴人の本件給水申込みには、水道法一五条一項は適用されない。

水道法一五条一項は、『水道事業者は、事業計画区域内の需用者から給水契約の申込みを受けたときは、正当の理由がなければ、これを拒んではならない』と規定するが、これは、需用者が水道法一四条一項の供給規程に定める供給条件を承諾した上で行う給水契約の申込みについて適用されるものであり、その供給条件と異なる条件を提示していた給水契約の申込みを承諾すべきことを定めるものではない。また、地方公共団体の執行機関である高根町長としての被控訴人は、条例や規則に従った内容の契約を締結する義務があり、任意に条例や規則の定めるところと異なる契約を締結することは許されない。

控訴人は、水道加入金の支払に関する本件条例の規定に従わないことを明らかにしたうえで本件給水申込みをしたものであるが、このような申込みは、水道法一五条一項の全く予定していないところであり、このような場合には、同項は適用されないと解すべきであるから、被控訴人が本件給水申込みにつき承諾を拒否したのは当然であって、同項にいう『正当の理由』の有無を問題とするまでもなく、これを拒否することができるものである。

仮に、本件給水申込みに水道法一五条一項が適用されるとしても、水道加入金は、水道事業を適正に運営するための財政的基盤を維持するための収入源であり、その支払を拒否することは、水道事業の適正な運営を図ることを目的とする水道法の趣旨に反する行為であるから、本件給水申込みに対する承諾を拒否する正当の理由に当たることは明らかである。」

第三  当裁判所の判断

一  本件給水申込みの拒否の違法性の有無について判断する。

1  水道法は、水道が国民の日常生活に直結し、その健康を守るために欠くことのできないものであり、水道事業が公共的性格を有するものであることに鑑み、私法上の契約である給水契約の締結について規制を加えており、水道事業者に対し、料金、給水装置工事の費用の負担区分その他の供給条件について、供給規程を定める権限を与え、かつ、義務を負わせる(一四条一項)一方、需用者から給水契約の申込みを受けたときは、正当の理由がなければ、これを拒んではならないものとして、給水契約の申込みに対し受諾義務を負わせ、契約の締結を強制するとともに(一五条一項)、水道事業者は、供給規程を、一般に周知させる措置をとらなければならないものとし、給水契約の申込みをする者が不測の不利益を受けることがないように配慮している(一四条五項)。また、水道事業を経営しようとする者は、厚生大臣の認可を受けなければならないものとし(六条一項)、その認可を受けるに当たっては、申請書に添付する事業計画書に、料金、給水装置工事の費用の負担区分その他の供給条件を記載して提出しなければならず(七条一、二項)、厚生大臣は、料金が能率的な経営の下における適正な原価に照らし公正妥当なものであること、特定の者に対して不当な差別的取扱いをするものでないことなど一四条四項各号に規定する要件に適合すると認めるときでなければ、その認可を与えてはならないとして(八条)、供給条件の内容の適正を確保するものとしている。

これらの規定によれば、供給規程に定める供給条件は、水道法一四条四項各号の規定の趣旨を逸脱する不合理なものであってはならないが、供給条件がそのような不合理なものでない限り、水道事業者と需用者との給水契約は、専ら水道事業者が定めた供給規程の供給条件により規律されるものと解するのが相当である。したがって、水道事業者は、需用者から、供給規程に定める供給条件に従わず、あるいは、右供給条件とは異なる契約条件を示した給水契約の申込みを受けた場合には、その受諾を拒絶することができるものといわなくてはならない。同法一五条一項は、水道事業者は、事業計画に定める給水区域内の需用者から給水契約の申込みを受けたときは、正当の理由がなければ、これを拒んではならないものとしているが、この規定は、需用者からの給水契約の申込みが供給規程に定める供給条件に従っていることを当然の前提とするものであると解されるから、需用者から供給規程に定める供給条件に従わず、あるいは右供給条件とは異なる契約条件を示した給水契約の申込みを受けた場合には、同項の規定によって、これを受諾すべき義務が生ずるものとはいえないのである。

2  ところで、本件条例は、本件簡易水道事業の給水についての料金及び給水装置工事の費用負担、その他の供給条件並びに給水の適正を維持するために必要な事項を定めることを目的として制定されたものであるところ(本件条例一条)、その二七条は、一項においては、給水装置の新設等をする者から水道加入金を徴収する旨規定した上、二項において、供給装置のメーターの口径(一三ミリメートルないし七五ミリメートル)に応じて水道加入金の額(三〇万円ないし三六〇万円)を定め、三項において、前項の規定にかかわらず、共同住宅等の水道加入金の額は建築物の一区画(一戸)につき三〇万円とすると定めるとともに、四項において、水道加入金は、当該工事の申込みの際に納入しなければならない旨を規定している。そして、本件条例では、本件簡易水道の給水装置の新設等の申込みは、右新設等に伴う給水契約の申込みを包含するものと解されるから、本件条例は、右の給水契約の申込みをする者に対して、申込みと同時に、すなわち、高根町が申込みを承諾する前提として、水道加入金を納付することを要求しているものということができる。

そうすると、本件条例の水道加入金は、その納付が右の給水契約の締結の前提となっていて、水道法一四条一項に例示されている料金、給水装置工事の費用負担区分と同様に、水道の供給の条件といえるものであるから、同項にいう「その他の供給条件」に該当するものと解するのが相当である。

なお、本件条例の水道加入金は、右に述べたところから寄付金に当たるといえないことは明らかであり、私法上の契約に当たる給水契約にかかわるものであって、受益者に受益の限度で負担させるとの考慮によるものであることを窺い得ないから、地方自治法上の分担金に当たるといえないこともいうまでもない。

控訴人は、標準給水条例には、水道加入金に関する定めがなく、このことは、水道加入金が供給条件に該当しないことを意味していると主張するが、標準給水条例は、社団法人日本水道協会が作成した一般的な供給規程の参考例にすぎないものであるし、その作成の趣旨(全国的な一般的事項を記載し、地方の特殊事情を必ずしも折り込んでいない。)からしても、これに定められていない事項を供給規程の中に定めることを否定するものではないから(甲三五。なお、厚生省の所管課長が標準給水条例に若干の註解を付した上、都道府県宛に参考送付しているが、このことも、右判断を左右しない。)、控訴人の右主張は、失当である。

3  本件加入金の総額につき、控訴人は、水道法及び本件条例に定める「給水装置」には、清里Ⅱのように共用給水装置を設置した上、各戸に給水する場合の戸メーターは含まれないから、戸メーターの数及び口径にかかわらず、共同給水装置内のメーターの数及び口径により算出されるべきであると主張する。

まず、本件条例二七条一項は、給水装置を新設する者から水道加入金を徴収するものとしているところ、控訴人は、清里Ⅱについては、同項の「給水装置を新設する者」に該当するから、本件条例の水道加入金を徴収されるべき者であることはいうまでもない。次に、同条二項は、水道加入金の額を水道メーターの口径に応じて定め、同条三項は、「前項の規定にかかわらず」とした上、共同住宅(リゾート・マンション、アパート)等の水道加入金の額を一律に一区画(一戸)につき三〇万円とする旨を規定しているところ、これらの規定の趣旨に照らすと、同項は、共同住宅等については、共同給水装置を設置してこれから各戸に配水する場合であっても、一区画(一戸)ごとに水道加入金の支払を要するものとし、その額を一区画(一戸)当たり三〇万円とする趣旨の規定であると解するのが相当である。同項を含む本件条例二七条の規定についての控訴人主張の右解釈は、共同住宅等においては、共同給水装置を設置し、これから各戸に配水することによって、各戸ごとに水道加入金を支払う必要がなくなることとなり、共同住宅等について各区画(各戸)ごとに水道加入金の支払を求める同条の趣旨が没却されることになるとともに、共同給水装置を設置しない共同住宅等との均衡を著しく欠く結果になるから、不当であって、容易に採用することができない。

したがって、各戸ごとに水道加入金の支払を要するものとして高根町が算出し、控訴人に対し支払を求めた清里Ⅱに係る本件加入金の総額は、本件条例に基づくものとして正当である。

4  そこで、本件条例の水道加入金に係る供給条件の合理性につき検討する。

甲第九号証、乙第六号証の一、二、第七号証から第二三号証までによれば、次の事実が認められる。

(一) 高根町は、山梨県北端の山間部に位置し、南北20.9キロメートル、東西6.7キロメートルの南北に長い細長い地形で、その総面積は、64.58平方キロメートルであり、その地勢は、南々西から南北に傾斜し、山や谷が多く、集落は、標高六〇〇メートルから一二〇〇メートルにわたる傾斜地に散在している。同町内にな河川その他の水源が乏しく、主要な水源は、各所に散在する小規模の湧水及び井戸(地下水)並びにダム用水からの受水である。

そのため、本件簡易水道においては、配水管を効率的に布設することが困難であり、水源である湧水及び井戸からの取水及び送水並びにダム用水の送水のためにポンプ等の施設が相当数必要であることから、これらの施設の維持及び整備等に多額の費用を要する実情にある。また、町内には、水源がもともと乏しいことから、近年の水需要の増大に応じるために、新たな水源の開発にも資金を投じなければならない。

(二) 本件簡易水道事業は、昭和六三年ころに町内の多数の簡易水道組合員を統合して発足したもので、その施設は、統合前の各簡易水道組合のものをそのまま受け継いでいるため、その大部分が昭和三〇年代から昭和四〇年代にかけて建設されたものであって、老朽化しており、配水管の布設替えその他施設の維持及び補修に多額の費用を要している。

(三) 平成六年の統計によれば、高根町の人口は、八七七四人であるが、同町の観光の中心地である清里高原には、年間二五四万八二〇〇人の観光客が訪れており、この観光客の数と同年の高根町の人口の通年の延べ人員(同年の人口八七七四人に年間の日数三六五を乗じたもの)とを比較すると、観光客数は、同町の人口の約0.8倍に達している。また、年間の観光客数を月別に比較すると、観光シーズンである七月、八月の観光客数は、それぞれ年間の月平均観光客数の約三倍となっており、例年この時期の水需要が一時的に著しく増大する。そのため、夏季における水需要の著しい増大に対応する水源の開発、施設の整備及び維持が本件簡易水道事業の課題となっている。

これに加えて、年間の使用総水量も近年増加する傾向にあり、平成二、三年ころには、しばしば断水があり、平成五年には、夏季における清里地区の水需要に応じるため、約四〇〇〇万円の費用をかけてボーリングをし、これによって新たな水源を確保したという経緯があり、また、近年、年間を通じては水道を使用しない別荘が増加する傾向にある。

(四) そこで、高根町では、水道整備について長期的な計画を立てて、これまで水道管の布設替え、水源の確保等の施設整備を進めてきたが、今後もこれらについて多額の投資をする必要があり、近年本件簡易水道にとって重要な水源となっている峡北地域広域水道企業団からの大門ダム用水の受水については、今後供給量の増加が見込めないこともあって、増大する水需要に対する供給の確保は、容易ではない状況にある。

(五) 本件簡易水道事情特別会計に係る歳入歳出をみると、歳入については、近年では、一般会計予算から毎年一億円を超える金額の繰入れを行っており、他方、歳出についても、これまでに起債した公債の償還のために多額の公債費を計上している。歳入としては、国庫補助金もあるが、その額は、定住人口を基礎として算出されるため、それほど多額ではない。

(六) なお、前記(二)の統合前の簡易水道組合の各施設は、組合員の建設負担金の出捐や労力奉仕、地区の共同財産の処分により調達した資金等により建設され、維持されてきたものであったため、前記の統合時において、ほとんどの簡易水道組合では、新規加入者に対し、従前からの組合員との公平の観点から、権利金の支払を求めており、その額は、組合によって異なるものの、三〇万円を超える権利金の支払を求める組合も数組合あり、その最も高額なものは、八〇万円に達していた。昭和六三年に簡易水道組合を統合して高根町営の簡易水道事業として発足した際に制定された本件条例においても、統合前の簡易水道組合における権利金の支払の制度を引き継ぐ形で、水道加入金の徴収についての規定を設けた経緯がある。

(七) 水道加入金は、現在、我が国の多くの水道事業体において徴収されており、昭和五八年の調査によれば、全国の水道事業体の81.7パーセントにおいてその徴収がされている。

右各事実によれば、高根町においては、水資源が乏しく、その開発が容易ではないうえ、地勢上も効率的な配水管の布設等が困難であるため、給水施設の整備及び維持に多額の資金を要していたところ、さらに、近年における多数の観光客の流入や別荘等の増加により、一時的ないし季節的な水需要の増大に対処することができるような水道施設の整備が要請され、そのために多額の資金を要する状況にある。これらの定住人口以外の需用者の水需要は季節的な変動を伴うとともに、経済的な要因によって左右される部分が大きいため、その需要は、安定的なものではなく、これに応えるための施設を整備する費用を、使用量に応じて支払われる建前の水道料金によって回収することは、実際上困難であると考えられる。もとより、理論上これらをすべて水道料金に転嫁してその回収を図ることは可能ではあるが、それは、水道料金のかなりの高額化を招き、これを年間を通じて負担する定住住民に過重な負担を強いることとなるとともに、右(二)、(六)の本件簡易水道事業の沿革に照らすと、同事業発足当時の水道加入者が建設負担金の出捐や労力奉仕等によって水道施設を維持整備してきたこととの関係で均衡を失する結果となるものと考えられる。そこで、これらの諸点と水道事業については、独立採算性の建前が採用されていること(地方財政法六条)を考え合わせると、新規の水道加入によって生ずる水道需要の増大に伴う水道施設の建設、整備費用、水源開発費等に相当する費用について、新規の水道加入者に対し、水道加入金としてその分担を求めることは、不合理ではなく、新規加入者に対して不当な差別的取扱いをすること(水道法一四条四項四号参照)にもならないものというべきである。

本件条例の水道加入金の金額は、平成三年四月一日現在の全国の水道事業体における水道加入金の平均値が水道メーターの口径が一三ミリメートルの場合には六万五三八二円であることからすると(甲四八)、相当に高額であるといえるが、水道加入金の額は水道事業体によって著しく異なっている状況にあること、新たに開発された分譲地においては、水道加入金の額は二〇万円前後の金額であることが多いこと(甲九、乙一)などといった事実に右(一)から(七)までの諸事情を総合考慮すれば、本件条例の水道加入金が著しく高額で不合理であるということはできない。

そうすると、本件条例の水道加入金に関する定めは、水道法一四条四項各号の趣旨を逸脱する不合理なものでなく、また、他の関係法令上も右の定めを違法とすべき理由はないから、水道法一四条一項の供給条件の一つとして給水契約を規律する効力を有するものというべきである。

控訴人は、憲法二九条二項は、財産権の内容についての定めを法律に留保しているから、条例で財産権の内容を制限することは許されず、また、私法秩序の形成に関する事項は、条例の所管事項ではないから、本件条例が水道加入金の支払を義務づけているとすれば、条例の所管事項ではない私法秩序を形成するものであり、憲法二九条の財産権を条例によって侵害するものであるから、許されないと主張するが、本件条例の水道加入金に関する定めは、財産権の内容を定めるものでも、私法秩序を形成するものでもなく、水道法一四条一項に基づき、本件簡易水道による給水を受ける者と水道事業者である高根町との給水契約の内容を定めるもの(約款)にすぎないから、この点に関する控訴人の主張は採用することができない。

さらに、控訴人は、本件条例の水道加入金に関する定めは、憲法二二条に違反すると主張するが、右の定めは、本件簡易水道への加入を申し込む者に対して水道加入金の支払を求めるものにすぎず、高見町への居住又は移転を制限するものではないから、憲法二二条に違反するものということはできない。

5 以上要するに、本件条例に基づく水道加入金の納入を拒絶することを明示していた控訴人の本件給水申込みは、本件簡易水道の供給規程における適法な供給条件に反するものであって、これにより、水道法一五条一項の規定に基づく受諾義務は生じないものであるから(右1)、高根町は、右申込みに対しその承諾を拒否することができるものであり、したがって、本件給水申込みの拒否には、何ら違法なところはない。

なお、控訴人は、水は人の生存に極めて重要な物資であるから、水道法一五条一項の「正当の理由」に当たるとするには、料金不払いに匹敵するような水道法固有の違反又は重大な正義に反する特段の事情の存在を要すると主張するが、右に述べたように、本件給水契約の申込みについては、水道法一五条一項の規定の適用がないから、同項の規定の適用があることを前提とする控訴人の右の主張は失当である。

なお、仮に、同項の規定の適用があるとしても、叙上の事実関係に照らせば、本件給水申込みに対しその承諾を拒否したことにつき同項の正当の理由があることは明らかである。

二  そうすると、高根町長である被控訴人のした本件給水申込みの拒否が違法であるということはできないから、控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

第三  結論

よって、原判決は、相当であるから、本件控訴を棄却することとする。

(裁判長裁判官鈴木康之 裁判官柳田幸三 裁判官小磯武男)

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